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目標1 研究開発プロジェクト
「アバターを安全かつ信頼して利用できる社会の実現」

プロジェクトマネージャー(PM)

新保 史生

慶應義塾大学 総合政策学部 教授

社会でCA(サイバネティック・アバター)を安全かつ安心して利用するため、CA操作者の認証(利用者認証)、操作者本人の公式CAであることの証明(CA認証、CA公証)により実現されるCA安全・安心確保基盤の実現を目指します。アバター生活実現のために克服すべき社会的・制度的な課題を解決するため、 「倫理・経済・環境・法・社会(Ethical, Economic, Environmental, Legal, and Social Issues:E3LSI)に関わる課題を明らかにし、国内外の技術・制度的課題解決に向けた提言を行います。CAの社会受容性を高めることで、CAが分身となり他者と接する世界、CA同士が接する世界、すなわち、CAを介した新たなコミュニケーション文明が開化することを目指します。

ムーンショット型研究開発事業目標1・研究開発プログラム概要

少子高齢化が進展し労働力不足が懸念される中で、介護や育児をする必要がある人や高齢者など、様々な背景や価値観を有する人々が、自らのライフスタイルに応じて多様な活動に参画できるようにすることが重要です。そのためには、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現することが鍵となります。

 本研究開発プログラムでは、2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現するため、サイボーグやアバターとして知られる一連の技術を高度に活用し、人の身体的能力、認知能力及び知覚能力を拡張するサイバネティック・アバター技術を、社会通念を踏まえながら研究開発を推進していきます。


「サイバネティック・アバター(Cybernetic Avatar)(略称:CA)」とは

「サイバネティック・アバター」という用語は、「サイバネティクス」と「アバター」から成る造語です。

「サイバネティクス」という用語は、古代ギリシャ語の「Κυβερνήτης」(kybernetikos)[舵取り]という用語が語源であるとされています。

(Stuart Umpleby, Definitions of Cybernetics, American Society of Cybernetics <https://asc-cybernetics.org/definitions/>(1982; revised 2000).)

(新保史生「サイバネティック・アバターの認証と制度的課題 - 新次元領域法学の展開構想も踏まえて -」ロボット学会誌(書誌情報記載)

19世紀前半、フランスの物理学者アンドレ=マリー・アンペール(Andre ́ Marie Ampe ́re)が、「『行政区の統治』に関する論文で、制御というものを対象から切り離して純粋に抽象的なものとして捉えることによって制御の一般法則を導き出すことを試み、その際にこの言葉を用いた」のが最初であると考えられています。

(赤堀三郎「戦後アメリカにおけるサイバネティクスと社会学」経済と社会(東京女子大学社会学会紀要)37巻(2009)p.30。)

アンペールは、電流と磁場との関係を示した「アンペールの法則」を示した物理学者であり、それに因んで名付けられた電流の計量単位である「アンペア」は、私達の日常生活において身近に用いられています。その後、1948年にアメリカの数学者ノーバート・ウィーナー(Norbert Wiener)が、『サイバネティックス』という書籍においてこの用語を用い一般に広く知られるところとなりました。

(Norbert Wiener, Cybernetics: or Control and Communication in the Animal and the Machine. Cambridge, Massachusetts, MIT Press (1948).)

「アバター」の語源は,ヴィシュヌ神の「アヴァターラ(अवतार, Avatāra)」を意味するサンスクリット語に由来します。アヴァターラとは「化身」を意味します。

現在、「アバター」という用語は,「自ら」の「分身」という意味合いで用いられていますが、人間(自然人)の分身ではなく「神の分身(化身)」が本来の意味です。

(新保史生「サイバネティック・アバターの存在証明」書誌情報記載)

研究開発プロジェクトの目的

サイバネティック・アバターを将来的に日常生活で利用するためには、そのCAが「誰」なのか認識できなければ、そもそもアバターを社会で信頼できる存在として利用することができません。正体不明のアバターを相手に契約や交渉などの社会活動をCAを介して実現することは難しいと考えられます。

CAを日常生活で安全・安心かつ信頼して利用するためには、その信頼性を保証するための「CA認証」の仕組みを検討・構築することが本研究開発プロジェクトの目的です。

研究開発プロジェクトの概要

本研究開発プロジェクトは、身体・脳・空間・時間の制約からの解放を目指す社会で利用する「ソシオCA」と体内においても動作する「体内CA」の成果を横断的に検討し、異なるCAに共通する技術的・制度的課題を明らかにするとともに、国内外の技術・制度的課題解決に向けた提言や市民の意見収集の場を提供します。それにより、安全・安心・信頼を確保し、社会受容性を高めるCA基盤を構築します。

CA利用の安全・安心を確保するための「安全・安心確保基盤」を構築することによって、ムーンショットプロジェクト目標1のターゲット1の「CA基盤」の推進に貢献します。同時に倫理的・経済的・環境的・法的・社会的課題「E3LSI(イーキューブエルシー)」の研究を推進することによって、ターゲット2「社会通念を踏まえた新しい生活様式を提案する」の実現に向けた研究を行います。

研究開発プロジェクトの達成により目指す社会像

利用者認証・CA認証・CA公証により実現されるCA安全・安心確保基盤の実現を目指します。その基盤の構築により、安全・安心・信頼性を確保し、CAの社会受容性を高めることで、CAが分身となり他者と接する世界、CA同士が接する世界、すなわち、CAを介した新たなコミュニケーションが可能となる社会を目指します。

1-1 グループ1:プロジェクト間連携と実証実験マネジメント

研究開発課題

  • 研究開発課題1-1:研究開発プロジェクト間連携及び実証実験・データ収集支援  

基本方針

  • ソシオCAと体内CAのために必要な安全・安心確保課題を整理し、グループ2「CA安全・安心確保基盤の構築」と連携して、CA基盤構築のために必要な実証実験や評価用データベースの構築を行います。
  • ソシオCAと体内CAに対して、安全・安心に係る懸念事項がある場合は研究開発課題の再検討を依頼します。 
  • ムーンショットプロジェクト目標1で横断的に研究すべき研究開発課題を明らかにし研究開発を依頼します。
  • 社会に受け入れられるための制度的課題を明らかにして、プロジェクト内で制度的課題を解決する方策を立案・実行します。

1-2 グループ2: CA安全・安心確保基盤の構築   

CAの「乗っ取り」、「なりすまし」「違法・不正な技能模倣」を防止して、人とアバターが複雑に絡み合ってつながる社会において、利用者(CA遠隔操作者、CAサービス利用者)が安全・安心にCAサービスを受けることのできるCA安心安全確保基盤を構築します。

 CA安全・安心確保基盤は、上述の【利用者認証】、【CA認証】、【CA公証】を組み合わせることで、M人N体による遠隔制御、能力拡張を目指す2050年未来社会のための基盤を実現します。

 研究開発課題

  • 研究開発課題2-1:CA安全・安心確保基盤構築設計
  • 研究開発課題2-2:マルチモーダル型ショートターム利用者認証・CA認証技術開発
  • 研究開発課題2-3:無線指紋型ショートターム利用者認証・CA公証技術開発
  • 研究開発課題2-4: ショートターム無体物CA公証技術開発
  • 研究開発課題2-5:ショートターム有体物CA公証技術開発
  • 研究開発課題2-6:ロングターム利用者認証・CA認証・CA公証技術開発
  • 研究開発課題2-7:CA安全・安心確保基盤の社会実装

【利用者認証】

盗用や漏洩リスクが低いとされ、注目を集めているマルチモーダルバイオメトリクスの研究を行います。

CAを遠隔操作する際に利用者が利用するスマートフォン・ウェアラブルデバイス・PC等から発せられる無線電波指紋(Radio Frequency Fingerprint)以下、「無線指紋」という。)による認証を併用する多要素認証の考え方を取り入れます。

マルチモーダルバイオメトリクスとは、本人の身体の一部である生体データを複数種類組み合わせる認証方式です。なりすまし防止など高いセキュリティが可能となり、ICカードのような紛失リスクも存在しません。

本プロジェクトでは、CA利用開始時の利用者認証とCA遠隔操作時を想定した継続的な認証を併せて「ショートターム利用者認証」とします。

それに加えて、24時間、一週間といった長時間の観察から得られるライフログデータを用い利用者認証を「ロングターム利用者認証」と称します。

異なる時間スケールでの見守りによって、M×N倍の安全・安心対策としての頑健性を高め、これらの利用者認証は、CA遠隔操作途中での不正アクセスによる乗っ取り時にも有効な手段であると考えられます。

【CA認証】

CAは、CA遠隔操作者の分身として振る舞うことから、CA遠隔操作者の容姿、立ち居振舞い、表情、喋り方を模倣ないしデフォルメすることで、サービス利用者に一体感を与えます。このことは、CAを観察することでも、なりすましや乗っ取りなどを発見できる可能性を示しています。この技術を「CA認証」と呼びます。

本プロジェクトでは、複数の操作者が複数のCAを操作するM人N体による遠隔制御、能力拡張が行われる未来社会を想定し、複数の遠隔操作者の個性を時間的・空間的(CAの身体の部位やモダリティ)に分割して適応的に割り当てる制御手法や、そのようにして表出された個性から複数の遠隔操作者を認識するクロスモーダルなCA認証技術を開発します。

【CA公証】 

CA公証とは、正規のCAであるか否かを確認するための技術です。

不正CA(非公認CA)が公認CAになりすました場合も、非公認CAから表出する情報が正規のCA遠隔操作者とは異なることを利用し,なりすまし防止を行います。しかし、公認CAの機能レベルが低く、公認CAがCA遠隔操作者の要求通りに動作できない場合には、遠隔操作者と公認CAの振る舞いの同一性は担保されないおそれがあります。

CA公証は、公認CAの機能レベルを定義した上で、その公認CAが実現できる機能レベルを公的に証明する技術です。

1-3 グループ3:E3LSI課題・政策展開の研究

研究開発課題

  • 研究開発課題3-1:E3LSI研究基盤の構築 
  • 研究開発課題3-2:CA研究開発・利用に係るE3LSI課題の総合的研究
  • 研究開発課題3-3:サイバネティック・アバター法の醸成に関する研究 
  • 研究開発課題3-4:CAの知的財産保護及び社会的・政策的展開
  • 研究開発課題3-5:CA労働と経済活動
  • 研究開発課題3-6:CA計量経済学
  • 研究開発課題3-7:CA研究開発課題の連携

基本方針

  • CA安全・安心確保基盤を運用する上でのE3LSI課題(「倫理的・経済的・環境的・法的・社会的課題(Ethical, Economic, Environmental, Legal, and Social Issues))の研究を行います。
  • 「サイバー・フィジカル・サステナビリティ・センター(CPSセンター)」において、持続可能なCAの法的保護とサイバー・フィジカル空間を利用する新しい社会システムと法政策の研究拠点を形成し、そこから生まれる研究成果を立案普及させる取り組みを行います。
  • 新次元領域法学(AI・ロボット・アバター法)を提唱し、新たな学問領域としての展開を目指します。
  • アバターが社会に受容されるための社会規範・法規範とアバターが経済活動(経済安全保障やデュアルユース問題を含む)を行う上での法的課題に対応するための法制度を研究します。