イベント開催報告 ムーンショット新保プロジェクト:第2回プライバシー研究会 

2024年11月16日、東洋大学白山キャンパスにて「第2回プライバシー研究会」 を開催しました。その中の一部をご紹介します。 

国際色豊かな登壇者による多角的な議論かつ、自由な議論を促進するアットホームな場づくりが印象的な研究会となりました。 

ロンドン大学のEric Heinze教授による講演では、オンライン上の過激な言論に対する規制について、従来の規制アプローチはカウンタースピーチ(対抗言論)の可能性を過小評価しているという主張は、アバター社会における表現の自由を考える上で示唆に富むものでした。 

続くクィーンズランド大学のLuke Munn氏による講演では、現在のAI倫理原則の限界が指摘されました。特に、西洋的価値観に基づいた普遍的原則の押し付けではなく、マオリの価値観など多様な知の体系を取り入れた評価基準の必要性という指摘は、グローバルな技術展開において重要な視点を提供しています。 

台湾からの参加者による発表も印象的でした。成功大學の林昕璇助教による顔認識技術に関する法的課題の分析、南臺科技大學の郭戎晉准教授による台湾のAIガバナンスの最新動向の報告は、アジアにおけるAI規制の方向性を示す重要な知見となりました。 

EU司法裁判所のJulien Sterck氏による講演では、EUにおけるAI関連判例の分析を通じて、人間中心のアプローチ(human-centric approach)の重要性が強調されました。 

パラレルセッションでも興味深い議論が展開されましたが、東洋大学の小野上真也教授によるAIの法的責任に関する発表は、アバターの法的地位を考える上で重要な論点であり、法人処罰における自然人関連性の議論をAIに応用する際の限界と可能性について、綿密な分析が示されました。 

また、TMI総合法律事務所の白石和泰氏らによるAIと兵器に関するセッションでは、自律型致死兵器システム(LAWS)を例に、AI技術の軍事利用における倫理的・法的課題が検討されました。これは直接的にはアバタープロジェクトとは少し異なる文脈ですが、AI技術の社会実装における責任の所在を考える上で重要な示唆を含んでいます。 

本研究会では、若手研究者の発表の機会も多く提供されました。東洋大学の相澤岳琉君によるAIの不法行為責任に関する発表は、従来の法的枠組みでは捉えきれないAI特有の問題を指摘していました。 

本研究会を通じて、AIやアバターが社会に浸透していく中で、プライバシーや人権をどのように保護していくべきか、アバター技術の発展に法制度をどのように適応させていくか、文化的多様性をどのようにE³LSIに組み込んでいくか、といった点について、ムーンショット新保プロジェクトの目標である「アバターを安全かつ信頼して利用できる社会の実現」にむけた多角的で学際的な議論が展開され、研究者たちが学びあう機会になりました。